転職の多いスイス人と少ない日本人

人間関係の問題は、日本もスイスも同じ

上司や同僚とうまくいかない場合も、あまり我慢はせずに転職をするスイス人ですが、それができない場合、中には人間関係に悩んで病気になる人もいます。その点は、スイスも日本も同じでしょうか。メンタルの問題は昔はひた隠しにしていたのですが、最近では、それを周囲に隠すことなく、職場の上司に伝えて休職なんてことも多々あります。それでうまく復帰しているケースもありますが、そのままフェードアウトする人も多いようです。

メンタルの問題は、特に若い世代に多いようで、見習いの研修生ですらメンタルの問題を理由に研修を中断したり、辞めてしまったりします。スイスでは、この職業研修の修了証がないと、正社員での就職が難しいわけですが、正規の社員になる前に問題を抱えてしまうわけです。そうした環境は、このコロナパンデミックで悪化したように思われます。

就職前の研修期間と就職後の研修期間

スイスでは職業研修を3年から4年受けて、正社員とした社会に出ます。日本では、大学や専門学校を出て、会社に就職が決まったら、その会社の研修を受けます。スイスは、大学卒で就職した場合に、即戦力を求められます。試用期間が過ぎたら、他の社員と同じように仕事ができないと、クビになる可能性があり厳しいです。

スイスの職業研修制度は、国民の誰もが職を持つことで、食いぱっぐれないようになっているよくできた制度ですが、一方で、この職業研修を何度もドロップアウトしていると、就職が遠のきます。何か一つでも職業研修を終了していれば道はありますが、最近はこの悪循環にハマる若者も少なくありません。

しかし、日本は新卒で会社に入ってから研修があり、最初の1、2年は会社に利益をもたらさない社員として、あまり重要な仕事を任せられることはありません。会社としては、人材育成期間として見ているため、非常に効率は悪いのですが、新卒の社員からすれば、正社員という身分が守られていることになります。その代わり、会社からの急な転勤や異動には従わないといけない空気があります。日本の会社で働いた経験がある人なら、誰もが一度は感じることです。

語学研修などのキャリアアップも可

スキルアップのために、会社を休職して、もしくは辞めて海外へ語学留学へ行くというのは、スイスでは若いうちはOKのようです。語学に限らず、現在の業務にプラスになる研修であるならば、会社が費用を負担してくれたりします。日本の会社にもそうした制度はあると思いますが、スイスの会社もある程度のルールがあるようです。

まず、会社がスキルアップ研修の費用を負担する場合に、その研修が終わってから1年は会社を辞めることはできないとか、どうしても規定の期限内に辞める場合は、研修費用を会社に一部払い戻すかなどの制約があります。あとは、上司と会社との相談になると思いますが、週に何度か通常業務を抜けて講習を受け、そのスキルを会社に還元するという前提での費用負担ですから、当然といえば当然です。

しかし、そうした会社のサポートもあってキャリアアップを図り仕事が続けられる環境は、多くのスイスの会社において、比較的良い環境にあるのではないかなと思います。

こうした背景もあり、スイス人の転職は多いのですが、年齢が高くなればなるほど、難しいのは変わらないようです。やはり会社も若い人に投資したいという考えはあります。それでも、転職にあまり悪いイメージがないのは、キャリアアップや自分のやりたいことを優先するという考えが根本にあるからでしょう。

突然仕事をやめて、全く違う職種のために学校に通い直す人もいますし、社内外のステップアップ研修受講など、スイス人は何歳になっても学ぶ意欲が高い気がしています。確かに、学業を終えてしまうと学校に通って何かを学ぶ機会も減りますので、自分でその機会を作ることが可能な環境は非常に良いと思います。