陸続きの欧州
電車や車、徒歩で隣国に入るなんてことは日本では考えられないので、最初に欧州に来て歩いて国境を渡った時はすごく奇妙な感じがしました。日本でなら、隣の県に行くくらいの感覚でしょうか。改めて欧州大陸は地続きだと思い、こんなに簡単に外国人が入って来れるのかとも思いました。頭ではわかっていても、それを体感したのを今でも覚えています。
今では、用事があれば車や電車で国境を越え、数時間でまたスイスに戻るなんてことは日常となっています。EU国内では、行き来はもちろん自由でパスポートのチェックもありません。スイスは中立国ですが、シェンゲン条約のおかげで、ほぼノーチェックで出入国が可能です。見た目がアジア人の自分ですらパスポートの提示を求められたのは、1回あるかないかです。
しかし、スイス人の外国人に対する考え方に時折驚くこともあります。それは、年代にもよりますし、その人自身の体験にもよりますが、ここ10数年は、シリアからの難民、今ではウクライナからの避難民がスイスにもたくさん来ているので議論も増えます。
日本人は特別外国人?
近所に住む少し年配のスイス人女性ですが、会えばいつも立ち話をし、非常に友好的な人です。しかし、ある時、その人の住む建物に東欧からの家族が引っ越してきて以来、その家族の文句をいうようになりました。ルールを守らないとか、うるさいとか、挨拶をしないとか、よくある話です。
すると、「あなたの近所も外国人家族が多いようね?大丈夫?」と聞かれましたが、いやいや、自分が外国人だし問題も起きてないので、別に気になりませんよ。というと、
「何を言ってるの、日本人はちょっと違うわよ」
どう違うのかは聞きませんでしたが、日本人は大人しくてルールを守るということでしょうか。スイス人と話していて、こういう発言を聞くのは実は初めてではありません。
これまで何度も外国人の話になり、スイスのルールを守らず迷惑だという内容が多いのですが、それでも「日本人はちょっと違うわよ」と言われたことが多々あります。自分がスイス人と結婚していることを知っているからなのか、明らかにスイス人側の人間として話してくる人が多いです。
日本人に良い印象を持ってくれているのは、大変ありがたいのですが、結局、国籍で差別しているということなので、あまり気分の良いことではありません。いつももやもやしてしまいます。スイス人が何十人も集まって、自分一人が外国人(日本人)ということもありますが、そういう場でも、外国人に対する文句を言っている人はいます。もちろん、日本人のことを話しているわけではないのですが、外国人というと、自分もその中に入っているのではないか?と自然と感じてしまいます。
つまり、日本人は多くのスイス人にとっての「外国人」枠に入らないようです。
スイス人のいう外国人
スイスのお隣ドイツやフランスはいわばご近所さんです。仕事も越境でスイスに働きに来ている人も多く、週末はスイス人が物価の安いドイツやフランスに買い出しに行きます。スイス人にとっては、国境に接する国の外国人は一番抵抗が少ない外国人になるでしょうか。肌の色も同じ欧州人です。
実際、仕事場の同僚がドイツ人やフランス人だったりしますので、スイスジャーマンを話せる人も多いため、違和感は少ないようです。しかし、出身国が遠ければ遠いほど、外国の要素が強くなり、異なる文化や習慣、宗教と区別をつけ出します。スイス人に限らず、誰でもそうかもしれません。ドイツ語やフランス語ができるということも大きいのは間違いないでしょう。
スイス人のいう外国人は、東欧、アフリカ、東南アジア、中東からの外国人でしょうか。そこに日本人は入らないことが多いです。
ただし、スイス人から言われる、「日本人はちょっと違うわよ」という言葉を真に受けることができないのは、他では日本人も何かしら文句を言われているのかなと思ってしまうからです。道を歩いていれば、アジア人は皆同じに見えるそうですので、その区別はなく、たとえ日本人だと知っていても、少しでも行動が違ったり、日本人が大勢集まって騒いでいれば、「迷惑な外国人」に成り下がってしまうからです。
普段は大人しくて、友好的なスイス人ですが、内面的には保守的な考えが強い印象です。それは国民投票の議題を見てもわかります。スイスで、外国人を避けて生活することはほぼ不可能ですし、スイス人なりに外国人の選別をして臨機応変にうまく付き合っているというのが、個人的な印象です。
スイス人と結婚している場合、割とスイス人社会にも入りやすく、受け入れてくれることは確かにあります。スイスジャーマンやその地域の方言ができれば、尚良いでしょう。それでも何かしらの壁は感じ、過ごしていかねばなりません。
この近所の女性のように、普段は本当に良い人なのですが、どこかに差別意識がある人も多いようです。これだけ外国人がスイスに移住していれば、そう思う人がいてもおかしくはないのですが、そういう話を外国人である自分にしてくることに、やはり違和感を感じます。そして、それに気がついていない彼女。
どこの国に行っても差別はありますが、外国人として暮らすことの大変さも、出身国によって大きな差があることに複雑な気持ちであはります。