スイスの職業訓練制度

スイスの職業訓練制度

 欧州の中でもスイスの職業訓練制度は評価が高く、他国でも参考にされている。この制度では、日本でいう中学の3年が終わる頃、見習い先を探し、職種によるが3年から4年の職業訓練を実施し、学校に通いながら研修を終えれば、その職業で一人前とされる。当然、その訓練には試験があり、学校と職場の両立で非常にハードである。
 また、大学に進みたい人は、いわゆる高校でギムナジウムに進み、その後、希望する分野の学問を学ぶ。こうした学校制度なので、中学に入って最初の面談でも少し話が出ることもあり、先生に将来どんな道に進みたいかなど、ザックリではあるが聞かれたりする。日本の中1と言ったら、まだ部活に友達作りに忙しく、将来の職業など考えている子供はあまりいないだろう。スイスでも実際はそんなところだろうと思っていたが、意外にもそれぞれが、「将来の希望職種」と明言はしないが、いろいろな職業に憧れや想像をしていることがわかる。今はネットでなんでも調べることができるから、自分の興味ある職業を調べたり、その職に就くためにはどういうプロセスを歩めばいいのか?など、普段ゲームばかりしている子供でも、何かしら調べていたるするようで少し驚いた。
 特に中学からは成績別にクラスが分けられるので、そのクラスごとに職種の将来像などは、多少似た感じものになってくる。それでも、例えば大学に行くためのギムナジウムに進学可能な生徒でも、銀行での職業訓練を選んだりする場合があり、上のレベルのクラスの生徒ほど、選択肢はより多い印象だ。

このシステムの落とし穴

 このシステムの良いところは、ほとんどの人がなんらかの職を手にして食いっぱぐれない、ということになっている。最初聞いたときは素晴らしい制度だと思った。もちろん今でも良くできた仕組みだと思うが、この職業訓練を途中でやめてしまうと、落とし穴がある。いわゆるドロップアウトした場合、また別の職業訓練先を探すことになる。中学卒業と同時に決めた職業訓練先が、思っていたのと違う、別のことがやりたい、人間関係も含めて、まだ社会人になるには若すぎたなど、どれも理解できる理由ではある。そもそも、そうした職業を決めるのに、中3では早いという声はいつもある。

途中でやめてしまうと

 若さゆえに、途中でモチベーションがなくなりやめてしまう人もいる。中には家庭環境が悪くて、学業や職業訓練に集中できないなど、厳しい状況の人もいる。途中でやめてしまって、大変なケースは実際にあり、自分の知っている人では、3度も職業訓練を挫折してしまい、モチベーションも下がり、気がつけばもう20代半ばに。当然自立はできず、母親と暮らしながら、毎日フラフラしている状況で喧嘩が絶えないようだ。絶賛されるスイスの職業訓練制度にはこうした側面もあり、年齢だけの問題ではなく、何度もドロップアウトしている経歴で訓練生として取ってもらえなくなってしまう。そうなると悪いループになり、日本でいう就職氷河期の世代が、正社員の経験がないが故に雇ってもらえない負のループと同じ感じになる。

大学に進んだが卒業できないケース

 別のケースは、スイス人で大学に進んだが、卒業できず大学内で何度も専攻を変えて学び直すが、全ての学部で卒業ができず30歳を超えてしまった知人がいる。その人の場合は、その後卒業を諦めて退学。結婚して専攻分野とは関係ない仕事を見つけたそうだが、10年以上も学生をやったのに、その修了証がもらえなかったというケース。これはこれで辛いが、今は仕事も家族もあるので、良かった方だろうと思う。

就職後もスキルアップする社員

 就職してから、その分野でスキルアップする社員には、会社が積極的にバックアップするケースが多い。これは非常に良い制度だと思う。社員がスキルアップすることで、会社の利益につながるという考え方で、学費を補助したりするが、補助してすぐ別の会社に転職しないように、数年の縛りがあることが多い。または、会社の援助してもらった学費や講習費用を自分で支払えば、転職しても良いなど、会社によって取り決めがあるようだ。会社側も、その辺は想定しているようで、スキルアップ研修をしなくても、ステップアップで転職する社員は多いからだ。

新型コロナで職業訓練先が見つけられない

 今年は新型コロナの影響で、多くの会社の財務状況が良くない。まずは業績を回復しなければ事業の継続が危うい場合は、訓練生を迎え入れる余裕はない。また、職業訓練を間も無く終了する人にとっても、就職先を探すのに大変苦労しているようだ。大学生の場合も、予定していた分野への就職を再検討したり、1年伸ばすために休学したりするケースも出てきているようだ。
 いつの時代も、戦争や経済危機によって、将来を決める大事な時期に大変な思いをする世代が存在する。スイスはそれでもうまくやっている方だと思うし、そうした経験もまた後に成長の糧となっていることもあるので、めげずに頑張って欲しい。