ワーキングホリデーについての問い合わせ

スイスにはないワーキングホリデー制度

先日ワーキングホリデーについて問い合わせを受けたので、そのお話を紹介しようと思います。
まず最初に、日本とスイスの間に、ワーキングホリデー制度はありません。現在はなんと26カ国もの国がこの制度に参加していて、毎年多くの日本人が海外に出ています。この制度の概要は下記外務省のページで閲覧できます。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/visa/working_h.html

実は筆者も20年以上前に、このワーキングホリデービザを利用しカナダに滞在した経験があるのですが、当時行ける国はわずか3カ国でした。経験者として、今回の問い合わせにも答えようと思ったのですが、当時とは状況も異なるため、事務手続きやビザ申請については更新された情報を集めて、外務省か自分の行きたい国の大使館に問い合わせるなどした方が賢明だと伝えました。
しかし、問い合わせをくださった方の話を聞いて少し驚いたのは、いま日本で「ワーキングホリデー」を利用して海外に行きたいというと、親にも友人にも、ほとんどの人から、「ワーキングホリデーは絶対やめておいた方がいい!」と言われるのだそうです。
なぜそんなことになっているのかを聞くと、ワーキングホリデーを終えて帰国しても、就職口にありつけないからと言うことなんだそうです。

就職できるかどうかは、ワーキングホリデーとは関係ない話ですが、つまりは海外留学やMBA留学のように、評価に値しない経験が「ワーキングホリデー」なんだそうです。帰国しても何の資格も取れない、ただの「ホリデー」とみなされると言うことでしょう。
この方の質問は、つまり行った方が良いか?行かない方が良いか?自分ではわからないので、どう思うか?ということでした。

日本の社会構造的には不利な経験?

率直に言って、その程度の覚悟であるならば、行かない方が良いかもしれません。とかく、周囲の意見に流されやすい人が、海外に出て自分の意思で何かを切り開いていくことは困難を極めるでしょう。それが怖いなら、行かないことですし、結局周りの人が言うように何のためにもなりません。ただし、1年間滞在ビザを発給してもらえるということは、そうあることではないので、時間の使い方次第では貴重な経験になるのも事実です。おそらくワーキングホリデーの後に、「就職」というキーワードを出してくることが少し的外れな気もします。ワーキングホリデーは就職へのスッテップでもなんでもありません。

しかし、日本の社会はそうしたワーキングホリデーのような「遊学」を認めてくれない風潮にあるかもしれません。それは自分の時もそうだったように思います。おそらく、就職面接の際に企業側は、その人が何を経験して何を得たのかが分かりにくいからでしょう。会社は、会社にとって利益をもたらす人が社員として欲しいわけで、その意味では、周囲がやめておけと言うのもわかりますし、ある意味その人の性格を知った上でやめろと言っている気もします。

目標がはっきりしているなら良い経験になる

逆に、何が何でも海外に行きたい人は、他人に相談なんてしないでしょう。自ら現地の情報やビザについて調べ、SNSなどを使い行く前から人脈を作る人もいるかもしれません。ただ、そう言う人は何かしらはっきりした目標があるものです。目標があるならそれに向かって突っ走ることができますし、モチベーションも上がります。それでも予期せぬ問題が起きますが、それを乗り越えて行く力があると思います。

自分の話をすれば、語学の習得はもちろんですが、その時にしかできない経験を求めて渡航しました。つまり、明確な目標があったわけではありませんが、とにかく外国を見てみたかった、現地で生活してみたい気持ちが強かった覚えがあります。今のようにインターネットもスマホもない時代でしたが、大使館に問い合わせたり、海外を経験した友人に話を聞いたり、セミナーに出向いたりして情報を集めました。外国人が集まるバーに行き、外国語に触れる機会も作りました。

しかし、日本は就職氷河期の真っ只中で、有名大学を出た人が就職先を確保できないような厳しい状況でした。リスクがないわけではなく、そこは色々と考えて、休学という形で行くことに決めました。帰国して4年生を終わらせれば、新卒として就職活動できるからです。

運命の分かれ道。

渡航中に知り合った日本人で、現在も友人関係が続いている人がいますが、彼は同学年で現地の同じ英会話学校で知り合いました。故郷も同じで、共通の知人もいると言う偶然が重なり、よく会うようになりました。その彼は、自分のように休学ではなく、大学を卒業してそのままワーキングホリデー制度を利用して来ていました。運がよければ、現地で就職できるかもしれないと思っていたはずですが、現実はそう甘くはありませんでした。当時はバイトはいくらでもありましたので、それをステップアップにして、正社員登用になるケースもゼロではなかったです。

ただ、労働ビザを企業が出すには色々とハードルも高く、学歴や就労経験、資格などによって変わって来ます。大学を出てすぐに海外に来た人は就労経験がないので、ポイントにはなりません。その後、彼は別の大きな都市に引越し、仕事の可能性を探していましたが、1年のビザが切れ日本に帰国しました。

日本で待っていたのは

友人は日本に帰国後、上達した英語を武器に就職活動を始めましたが、時代は就職氷河期の中。新卒でも内定を勝ち取れるかどうかと言う状況で、ワーキングホリデー後の彼に就職のチャンスはなかなか訪れず、大変苦労したとあとで聞きました。前述の通り、ワーキングホリデーでは何の資格も得られませんが、それでも上達した英語力を証明するためにTOEICなどの試験を受け、彼は英語学校の契約社員になります。

自分も帰国後、同じようにTOIECの試験を受けて、就職活動中の履歴書に記載できるように備えました。ただ、新卒学生として就職活動に参加できたのが幸いし、帰国後3ヶ月で内定をもらうことが出来ました。他の学生に比べて、就職活動のスタートも遅れていましたし、休学したため同期とは年齢も違う。同期はすでに卒業したため情報収集も苦労しました。ただ、この時期の1年や2年はそれほど影響があるとは感じませんでした。むしろ、厳しい氷河期時代で就職や卒業が先延ばしになった方が良かったケースもありますし、良い企業との出会いも巡り合わせでしょう。

しかし、現実問題として、日本の企業はワーキングホリデーのような経験をあまり評価していないのは事実です。それより海外に行ったことがないのに、TOEICの点数が高い方が就職には有利になるわけですし、何より新卒学生を取りたいと言う傾向は変わっていません。もし話を聞いてくれる企業があれば、その期間、自分が何を経験して何を得たのか、それがこれから会社にとってどんな利益をもたらすのかを説明し納得してもらえれば、内定につながるでしょう。

自分にとっての経験、自信

問い合わせをくれた方のように、帰国後の就職のためにと考えているなら、ワーキングホリデーはあまりお勧めできないと言うことになりますが、その人の経験としては、決して無駄にはならないと思います。その人がいい経験も悪い経験も含めて、全てを成長の糧にできるのであれば、それはプラスですし、どこの国であっても生きていけるでしょう。
他人はそうした自信を感じますし、企業の面接担当者も見抜くと思います。資格はないけど、人間的に海外で大きく成長した人間だと評価されれば、会社にもプラスの存在になると判断されます。

コロナパンデミックという障壁もあり、なかなか海外に出る学生も減っている世の中ですが、一度日本の外に出て、なんでも経験してみるのも悪くはないでしょう。10年後、あの時行けば良かったと思うくらいなら、若いうちに経験しておくべきでしょう。中年になってからではもう遅いです。

ぜひ自分で考えて決定してほしいと思った問い合わせ内容でした。