スイスの酪農家

スイスといえば、チーズが有名で酪農も盛んだ。街の郊外には、大抵酪農農家があり、牛乳や卵を無人販売で買うことができる。搾りたての濃い牛乳は美味しい。
今回休暇で、スイスのアルプスで酪農を営む一家の山小屋に宿泊する機会があった。
標高は900m程のアッペンツェルの山。庭からは街が見下ろせる良い景色。周辺も酪農家で人間よりも動物の数の方が多い。空気は澄んでいて気持ちがいい。
到着すると、自家製のヤギのチーズが用意されていて、卵や野菜、自家製のジャムなども頂いた。

ここの農家は、ご主人と息子が外に働きに出ていて、奥さんが毎日家畜の世話をしている。話を聞くと、もともと夫妻は農家の家ではなかったそうで、自分たちで酪農をすることを決めたそうだ。
当初から小規模の酪農家で、ヤギが約20匹、牛が10頭で野菜も栽培しているようだ。成人した子供が5人いて、2人はまだ実家にいて酪農を手伝っているそうだが、娘さんの方はいずれ出て行くだろうと話していた。
敷地内にある2階建ての山小屋を、3年前から別荘としてインターネット上で貸し出しているそうだ。
アッペンツェルの家は、天井が低い。昔ながらの家は、天井まで1m90cmくらいで部屋の入り口はもう少し低くなり、頭をぶつけてしまうくらい。
とても風情があって、木造の家の軋みとか匂いが何となく懐かしく、最近の新築の家にはない魅力があった。
1階から2階へ登る階段は、吹き抜けのようになっていて、ワイヤーで吊るされた板でピッタリ閉めることができる。

ちょうどスイスのTVで、幼子を2人連れた若い家族が、農家を買うというドキュメンタリーを放送していた。とにかく、朝から晩まで家畜の世話と子供の面倒を見るわけで、大変の一言だ。
それを承知でこの家族は決断したわけだが、宿泊した山小屋の農家も、朝は早くから働いていたし、お昼は家族の食事を用意し、遅くまで働いていた。
休暇に行くことは稀で、行くとしても代わりに家畜の面倒を見る人を探さねばならないし、なかなか難しいそうだ。
これとは別の番組で、農家の男性が嫁を探すという番組も人気だ。これはスイス版とドイツ版がある。無口でシャイな農家の男性が、街から来た女性とぎこちない会話をしながら距離を縮めて行く。中には、農業には向かなさそうな若い女性もいるが、どこまで本気で農家に嫁ごうと思っているのか、まだ大変さを実感していない人がほとんどだ。
とにかく、人生を捧げるくらいの気持ちでないと務まらないだろう。

奥さんは、話好きで親切。見るからに面倒見が良さそうで、色々と声をかけてくれた。ご主人と息子さんは、無口で寡黙。典型的だが、決して機嫌が悪いのではなく、ただただ照れ臭いようで、何かを聞いてもすぐ奥さんを呼びに行ってしまう。それでも、人が良いのはよくわかった。

スイスと言っても、街と山では生活スタイルが全く異なる。そんなことは分かっているつもりでも、実際にその地に短期ではあるが滞在してみると、厳しい自然と動物を相手に、知恵を生かした生活をしていることが垣間見える。突然の雷雨や嵐、雹が降ったり寒かったり。大げさにいえば、人間が生きのびるという原点を見たような気がする。
滞在中は、残飯などを豚小屋に毎日持って行き食べさせ、極力無駄のない生活を経験させてもらった。普段の生活でいかに無駄を出しているか痛感した。これは大人にも子供にもいい経験になる。1度でいいから、子供が小さいうちに経験させるといいかも知れない。
これからは、農家の人の苦労を思い浮かべて、牛乳や野菜を大事に頂きたいと思う。