燃え尽き症候群(Burnout)

スイスでも増えるバーンアウトの人

バーンアウト/燃え尽き症候群という言葉は、もう何年も前からありますが、実際に友人の中にも様々なストレスを抱えて、このバーンアウト症候群になった人がいます。スイスでは、働く人の30%近くが、なんらかのストレスを抱えていて、若い人に多いようです。

友人とはもう10年以上、家族ぐるみの付き合いですが、以前の仕事が大変だったことくらいしか知りませんでした。それが、先日久しぶりに会った際に、ひょんなことからその話題になり、実はバーンアウトだったという話をしてくれました。

きっかけは同僚と上司の退職

彼は電気技師として、ある会社に勤めていました。自分の担当するメインの案件は、ビルの建設計画の1件だけで、それで十分忙しく、やりごたえのある仕事だったそうです。それがある日、同僚が次々にやめていき、最後は直属の上司が突然の退職。

新たな社員もすぐには入らず、同僚や上司の受け持っていた案件を、彼が一気に引き受けることになり、なんと気がついたら19件もの案件を一人で担当していたそうです。通常であれば、一人で担当するには考えられない件数だったということです。しかも、本来はやらない雑務や自分の知らないシステムを使っての仕事にも手をつけており、当時の勤務時間はなんと朝の5時から夜の10時。週末も会社に出勤していたそうです。ほとんど休みがない状態で、およそ1年間その状態で仕事をしていたというから驚きました。

睡眠障害になる

自分でも気がつかないくらい無理をしていたと話していましたが、その状況ではゆっくり眠ることすらできず、ついに睡眠障害に悩まされます。体は疲れ切っているのに、脳は覚醒状態が続いて眠れない。

結果、仕事に支障が出るようになりついに退職したそうです。

医師にはもちろん相談し、専門家の睡眠セラピーなどの治療に専念したそうです。その間、友人の勧めもあり、充電期間として海外旅行に出たり、趣味のバイクで欧州をツーリングしたりしてなんとか回復。そして、これまでの電気技師の経験を生かして、電気系専門学校の講師になるため学校に通います。結果、見事合格し、専門学校講師としての職を得ることができました。労働環境も改善し、学校が休みの期間は自分も休むことができ、今では二人の子供の学校の休みにも合わせられて、満足した生活を送っているそうです。

残ってしまった睡眠障害

幸いバーンアウトから脱した友人でしたが、睡眠障害は今でも続いているそうです。眠りに入ることはできるが、異常に浅い眠りのため、部屋にある観葉植物の葉っぱが落ちただけでも目が覚めてしまうそうです。子供が小さい時は、夜泣きはもちろんのこと、隣の部屋で子供が寝返りを打っただけでも起きてしまいます。そんな状況から、彼だけ別の部屋で寝ているそうで、家族旅行の際も一人だけ別の部屋を確保しないと寝れないということです。

医師によれば、ホルモンのバランスがバーンアウトの際に狂ってしまっていて、なかなか治らないのだとか。夜中に何度も起きてしまう習慣が記憶されてしまって抜けないそうです。それでも、セラピーを受けて、改善を目指しているようです。

彼の場合、間違いなく、バーンアウトの後遺症と言えるでしょう。気持ちの余裕すらなく、安心して寝られる状況ではなかった環境が、数年経った今でも影響しているのは怖いことです。

周囲のサポートと転職

家族の支え、友人のサポートやアドバイスもあり、もちろん本人の努力も大きかったと思いますが、転職計画もうまくいった例ではあります。ただ、睡眠障害という後遺症が残ってしまったのは、話を聞いていても本当に大変そうでした。

管理職になる年代は、どこの会社でも大変そうな環境が続いていますし、実際に若手と上司との板挟みで苦労する人が多いです。バーンアウトになる前に抜け出した方がいいのか、我慢して切り抜けるべきか、家庭がある場合などは、その判断は非常に難しいと思います。周りのサポートや理解も重要ですし、本人だけでなく、家族も苦労することを考えると、その影響は想像以上に大きいでしょう。

日本よりも良い労働環境や休暇制度があるとは言え、真面目なスイス人故のバーンアウトやうつも多いのが実情です。彼のように、自分が無理をしていることに気がつかない人も多いので、独身者の場合はより発見が遅くなります。社会全体の問題ではありますが、彼のように復帰できたのも、スイスの職業訓練のシステムがうまく機能していたとも思いますし、周囲のサポートにも恵まれた結果でしょう。

誰にでも起こりうるバーンアウトですが、日頃から自分の限界点を知っておくことも大事だなと思いました。