津軽三味線に魅せられたラインハルトさん

イースターの週末、RotkreuzのMusikschuleでまもなく公演の朗読劇「遠野物語」の稽古にお邪魔させて頂きました。遠野物語とは、岩手県遠野地方に伝わる逸話、伝承などを記した物語です。今回は、この朗読劇で津軽三味線を担当するReinhard Ormannsさんと太鼓と唄を担当する奥様のKikiさんにお話を伺いました。今日は本番前の通しでの稽古ということで、お疲れ様でした。
まずは、簡単に自己紹介をお願いできますか。

Reinhardさん:今日来ていただいているRotkreuzのMusikschule、それからChamとHünenbergのMusikschuleで、コントラバス、サクソフォン、エレキベースの講師をしています。
Kikiさん:日本で声楽と気功と太極拳を学び、それらを組み合わせて教えていました。こちらでは以前太極拳を教えていましたが、日本とスイスの行ったり来たりが頻繁な事情から、今はラインハルトとの音楽活動がメインです。

基本的にはクラシックの音楽を学ばれたということで、クラシック音楽を学ばれた方が、津軽三味線のような全く別のジャンルの楽器を演奏される事は稀なのかなと思ったのですが、津軽三味線に興味を持ったきっかけはなんでしたか?

Reinhardさん:数年前にYoutubeで演奏動画を見たのが最初です。いくつか動画を見た上で、この三味線の音に惹かれました。それとは別に全く個人的なことですが、当時抱えていた悩みというかストレスのようなものが、三味線の音で一気に解放されていく感じがして、特別な魅力を感じました。全く新しいものと出会った感じです。そして、妻と日本に行った際に、三味線を扱う小さなお店を訪ねました。

それ以前に、スイスでは三味線には触れる機会はありましたか?

Reinhardさん:今はチューリッヒにも三味線のグループがあるのは知っていますが、その時は日本で触れたのが初めてでした。早速購入しスイスに持ち帰りました。

弾き方のレッスンはスイスで受けたのでしょうか?

Reinhardさん:いいえ、日本で三味線を購入した際に、教則本を買い、お店の人がオマケでくれたDVDを見ながら独自に学びました。その後、再度日本に行って、レッスンは受けましたが、あとはYoutubeで弾き方のマニュアル動画を見て覚えました。

なるほど、さすが音楽の基礎があるからこそできる習得方法であるかもしれませんね。初めて覚えた曲はなんでしたか?

Reinhardさん:じょんがら節です。本当にYoutubeは助かっています。何か知りたい時や学びたい時は便利ですね(笑)

私もそれはよく思います。特に音楽の場合は、昔はCDやレコードなど、音でしか聴けなかったものが、映像として見れて、こんな風に弾いていたのかとか、新たな発見にも繋がりますしね。

Reinhardさん:私もある意味Youtube世代ですね(笑)

ところで、専門のコントラバスに比べて、三味線はメインの楽器という気がしますが、演奏する側としてその辺の感覚は違うものですか?

Reinhardさん:実はコントラバスは、脇役に思われがちですが、バックにオーケストラを従えて、ソロのコンサートもあります。あまり知られていないかも知れませんが、ソリストもいてコントラバスが主役です。三味線の方が主役のイメージがあるのは確かですが、感覚が違うというよりは、演奏していて気持ちがいい楽器です。

今回、演者入場から退場まで見させて頂き、朗読の押川恵美さん、そして、太鼓と唄を担当された奥様のKikiさんの3人で非常にバランスが取れていたと思います。実際、演奏してみていかがでしたか?

Reinhardさん:そうですね、一通りうまく行ったと思います。朗読の合間に入れる音、物語が変わる節目に妻の太鼓と唄に合わせて弾くのですが、入るタイミングとかは、妻が合図をくれるので助かっています。日本語での朗読なので、どこで話が終わったかはわかりませんから。

それも伺おうと思ったのですが、この遠野物語の話の内容は読まれたのでしょうか?
Reinhardさん:はい、遠野研究所のサイトのドイツ語訳で読みましたので、物語は頭に入っています。最初は太宰治の「津軽」の朗読に合わせたいと思っていましたが、ドイツ語の翻訳がなく朗読するには長いので、読み手の押川さんが探してくれたドイツ語版の遠野物語に決まりました。
でも、どこで朗読が終わったか、音楽に入るタイミングは妻の合図が必要です。

遠野物語には、これ以外にもたくさん言い伝えられた話がありますが、今回はザシキワラシの話が出て来ます。このザシキワラシは日本人であれば、だいたいどう言う存在のものか、イメージが湧くのですが、スイスの方はどう捉えているのでしょうか?お化けの話の類になるでしょうか?

Reinhardさん:そうですね、お化けの話ももちろんありますが、例えるならこびとの話と似ているかも知れませんね。こびとにも良いこびとと、いたずらをする悪いこびとがいますから、それをイメージしました。

なるほど、こびとのイメージですか。そう言われるとイメージはあいますね。今回の朗読劇以外に、日本の舞台など観にいった事はありますか?

Reinhardさん:はい、日本で何度か歌舞伎座で歌舞伎を、それから浪曲と能も鑑賞しました。歌舞伎と浪曲は日本でしたので、字幕などはありませんから音と雰囲気だけでも勉強になりました。

押川さんの朗読に合わせ、奥様のKikiさんが太鼓と唄を担当されています。Kikiさんは声楽を学ばれたと言うことで、非常にハリのある通る声で、さすがに声の出方が違います。今回劇中に唄われる童謡などの曲もありましたが、声楽の声の出し方などやはり少し違うものでしょうか?

Kikiさん:民謡の場合は声を派手に鳴らしたり、悲しみや喜びを強い表現で唄うことが多いですが、わらべ唄では、なるべく自然に、遠い記憶を呼び覚ますような柔らかくて透明感のある声につとめています。

ザシキワラシの話の中で、戸が開く音を、太鼓と三味線をこすり表現される場面がありますが、いわゆる日本の古い家の襖が開くイメージそのものでした。

Kikiさん:そう言っていただきうれしいです。タイミングを合わせてやるのは簡単ではありませんが、稽古を重ねる度、三味線と太鼓が、演奏だけでなく、様々な効果音を出せることが発見できて、可能性が広がっていくのが楽しいです。

遠野物語は今回、昔の文体で朗読されていますが、頂いた原稿を黙読するのと、実際に聞くのとでは、全く違う印象です。考えて見れば、昔の文体での日本語の朗読を聞いたことがほとんどないかも知れません。これは新鮮でした。
そして、3人のそれぞれのパートがバランス良くまとまっていて、物語の内容もすっと頭に入ってくる感じでした。本番が楽しみです。
今日は稽古後のお話にお付き合い頂き、ありがとうございました。
どうぞお時間のある方は、足を運んで見てください。

遠野物語 Geschichten aus Tono
2018年4月6日(金) 19:00時
朗読:押川恵美
唄、太鼓:Kiki Park
津軽三味線:Reinhard Ormanns
会場:Aula der Musikschule Rotkreuz (SBBの駅から南口を出てすぐの、Rotkreuz Bibliothek 図書館の2階になります。)
Eintritt frei / Kollekte

遠野物語公演情報

今後のコンサート予定がありましたら教えてください。
今年の11月7日水曜日Solothurnで、11月9日金曜日Chamで唄と津軽三味線のコンサートがあります。
Tsugaru Express
7.November 2018
17: 30 Uhr Klosterkirche Name Jesu
Herrenweg 2 in Solothurn
Kontakt : www.arsmusica.ch

Tsugaru Express
9. November 2018
19:00 Uhr Mandelhof
6330 Cham
Kontakt : reinhardormanns@datazug.ch

パワフルな津軽三味線の音楽で、心身がほぐれ、自然とノってくるライヴを目指しています。
私たちがそこから来た、そこを離れてはいられない、そんな命の泉を湛えた、または弱まった炎を再び燃え上がらせるような演奏ができたらと励んでいます。私たちも、聴いてくださる方も、心の新しい扉を開くキッカケになれたら幸いです。

プロフィール:Reinhard Ormanns 
音楽家。津軽三味線で新境地を拓く。音楽の他にも日本文化に強く魅せられ独自に研究、日本とスイスで、折り紙展と折り紙講座を開催。
プロフィール:Kiki Park
ボーカリスト。ジャンルを問わず、様々な音楽に挑戦している。太鼓、ピアノ、ライアーも弾き、気功と音楽を通した心身の調和、回復の術を探っている。