Grüezi 100号記念インタビュー(Altdorfから25年)

紙媒体の存在

実は、ずいぶん前に、野嶋さんにある質問をされたことがあります。「今後、紙媒体はなくなると思いますか?」という質問でした。私は、「無くならないと思います」と即答しました。新聞などを手にとって読む感覚というのは、人にとって長年親しんできた習慣でもありますし、実際今でも無くなっていません。現在も郵便受けには、広告を含め、新聞などもたくさん入ってきます。毎日ネットを見ていても、そこから得る情報も実はあります。請求書や税申告もまだまだ紙で来ていますし、どれだけデジタル化が進んでも、紙の存在は薄れていないと思います。もちろん、新聞の発行数や購読者数には変化があると思いますが、ゼロにはならないでしょう。

紙媒体の良さについて、教えてください。

野嶋さん25年間『グリエツィ』を発行してきての私の実感としては、紙媒体は、やはり残念ながら、かなり衰退傾向にあるというものです。私を含めた昭和世代などは「紙媒体」へのこだわりはあると思いますし、『グリエツィ』のような新聞・雑誌が手元にあることの安心感やある種の温かみを感じ続けていると思います。

 しかし、インターネットやヴァーチャルの世界が広がるなかで、紙媒体でなくてもコミュニケーションが簡単にできる世代が今後増えていく中で、出版の形も急激に変わっていくと思います。大手の新聞社のOnline化を見ていると、紙媒体がすぐには激減するとは思わないし、完全に消滅してしまうとも思いませんが、確実に減少していくだろうとは思います。

 私自身は、古い時代を代表している世代で、どちらかというと紙媒体を頑固に守っていきたいと思っていますが、さてどうなるでしょうね。

私はもともとアナログ人間で、『グリエツィ』の発行の事情で、コンピューターや各種のソフトウエア、インターネットの検索などもよくしていますが、できることなら、印刷された書籍や新聞を読み、映画館や美術館に足を運び、コンサート、演劇・パフォーマンスなども直接見にいきたいタイプです。生活の中でも、PINコードがどんどん増える生活はできるだけ避けています。一見便利に見えるOnline化など、人のコミュニケーション能力がそのせいで鈍化していくのではないか、とても危惧しています。ある意味で、人間が脆くなっていくような危うさを感じます。

 しかし、一人でこの大きな動きを押しとどめることは、残念ながらできませんね。

 いずれ、現在の舞台から身を引かざるをえないでしょうね。「老兵は去るのみ」の時期が来るのだろうと思います。

印象に残るのは、福島第一原発の事故

スポンサー集めも含め、25年間で一番大変だった時期はありますか?また、一番印象に残る年などがあれば教えてください。

野嶋さんスタート時点では、4ページ立てでしたから、広告スペースも多く確保できませんでしたので、無理なスポンサー探しはしませんでした。でも、いくつかの日本関係の会社やお店に働きかけてみました。その頃は、ドイツ語もまだまだたどたどしかったので、スイス人経営のお店などは苦労しました。そうした中で、とても嬉しかったのは、チューリッヒのSato Schlaf Räume(現在はSato Slow Living)さんが、即答で広告掲載を約束してくれたことでした。以来、ずっと『グリエツィ』を応援してくれています。

 広告とは関係ありませんが、25年間『グリエツィ』を発行し続けて、一番印象に残っているのは、なんと言っても、2011311日の東日本大震災とそれに伴う東京電力福島第一原発の過酷事故です。それをきっかけに、それまで、ある意味で非常に「中立的な」スタンスをとっていた(つもりの)編集方針が大きく変わりました。

つまり、脱原発・反原発の旗印を明確に掲げ、毎年の3.11前後の号では特集を組んだり、反原発行動を意識的に取材し、報道する姿勢を明確にしています。フクシマの事故後、「原発緊急事態宣言」は今も解除されていない上、多く避難者が以前の生活に戻れない状態が続いています。汚染水の海洋放出が、漁業関係者や地元自治体の同意なしに強行されようとしているような状態ですから、今後もこの福島第一原発問題は、引き続き取り上げていきます。

それともうひとつ、『グリエツィ』として、意識的に取り上げているテーマは、「複数国籍容認を求める署名」と「国籍はく奪条項違憲訴訟」です。特に2018年3月にスイスなどに在住する8人の原告が東京地方裁判所に提訴した「国籍はく奪条項違憲訴訟」(原告代表 野川等氏)については、訴訟の最初から注目し、動向を報じてきました。国籍第11条1項が、今日の国際的な動向、日本国憲法の精神に反したものであるという立場から、原告団の裁判闘争を支援しています。

「国籍はく奪条項違憲訴訟」支援ネットワーク
http://yumejitsu.net/category/支援ネットワーク/

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