蔓延する薬物とスイスの対策

綺麗な国のイメージの裏では

 違法な薬物とは無縁なイメージのスイスだが、思った以上に薬物は蔓延しているのがスイス。かつて80年代は、チューリッヒの川のほとりに薬物中毒者が屯し、社会問題になったのはスイス人なら誰もが知るところだ。今でもTVのドキュメンタリーなどで紹介されることがあるくらい酷い状況だったという。こんなシーンは対外的にはスイスのイメージと異なる。

大麻入りの商品と医療大麻

 実際に今日現在でも、大麻はそこら中で吸っている人がいるし、下手をすると中学生が吸っているような状況。スイスのスーパーでは、大麻のアイスティが販売され、大麻入りの合法タバコもある。ライセンスをとれば医療用の大麻の販売も許可されている。実際に、外で大麻を吸っていて警官に見つかっても逮捕などされず、注意にとどまるが、販売目的の大量所持や栽培はもちろん違法で度々逮捕者が出ている。大麻は中毒性が低いし害はないという人がよくいるが、エントリードラッグであることに変わりはない。その大麻吸引1回きりの人もいれば、刺激を求めてより強いドラッグに手を出す人も多い。

ヘロイン中毒者へのメタドン配布センター

 以前も紹介したが、重度のヘロイン中毒者には、メタドンという薬物を配布している。中毒患者は、医師から発行された中毒者の証明書を持っていて、それがないとメタドンの配布は受けられないようになっている。このような対処をしているなんて日本では考えられないが、この考え方は、他の欧州国でも実施されている。要するに、重度の薬物依存の患者は、改善の可能性がほぼなく、クスリ欲しさに犯罪に走るので、それを減らすために、メタドンという代理薬物を配布しているわけだ。また、違法薬物の販売組織もこれにより資金源を絶たれるという効果もあり、スイスでは当たり前の対策になっている。
 たまにそうした患者の人たちがたむろしていることがあり、流石に異様な雰囲気を放っているが、何か危険な感じはしない。

コカインは上流階級の遊び

 大麻は中学生でも吸っているが、コカインとなるとやはり入手にはハードルが高いようで価格も高い。TVでもドキュメンタリーをたまに見るが、コカインのディーラーが顧客にしているのは、社会的にも地位が高い人が多いそうだ。純度の高い上質なコカインを使用し、入手先を確保しているので、薬が切れて問題行動を起こすこともないそうだ。それでも違法は違法。羽目を外しすぎて、捕まる人もいる。

犠牲になる若者も

 こうしてスイスの状況を見て見ると、一般の人でも気軽に薬物に接しているような印象を受け、なんでもないことのように思いがちだが、悲劇も起きている。若者が薬物に手を出し命を落とす例も多い。自分から薬物を入手して使用するなら自業自得だが、クラブやバーなどで、ドリンクに薬物を混入され、それを知らずに飲んだ若者が死ぬ事件は、今でも多いそうだ。クラブに行ったら、自分のドリンクから目を離すなとよく言われた。トイレに行くなら飲み干してから行け、とまで言われると、やはりどこでも起こりうることなんだと認識した。欧州は陸続きだから、とにかく色んな人がいるわけで、そうした薬物もどこから来たものなのかわからない。

 こうした話は、上述のメタドンの配布センターで働いているスイス人の知人に聞いた内容なので、よりリアルに感じられる。普段の生活から、自分がそうした状況に接する機会はないが、まだ若い子供達が今後薬物に接しないように、その怖さを知っておいてもらいたいとよく思う。実際にそうしたテーマで話をすることもあるので、例え友人に勧められても、断るように言ってあるし、TVでそうしたドキュメンタリーを見せたこともある。そうしたタブーテーマからは、子供を遠ざけがちな親も多いが、中高生の親なら心配事の一つなので、あえて話をしておくといいかも知れない。