スイス人の豊かさ

スイス人の暮らし

スイスと言えば、牧歌的なのどかなイメージをする人もいれば、金融業における銀行口座の守秘義務など、お金に関するイメージもある。
実際、この国の物価は他国に比べても高い。長年暮らしても未だに高いと思うことが多々あるが、この国の仕組みを少し見れば納得することも多い。

しかし、必ずしも高収入のスイス人がお金にがめついわけではない。もちろん収入が相当に高い人は、贅沢をしている人も多いし、そういう人もいるだろう。個人的には、税金対策で海外からスイスに移住してくる富裕層の方がそうした印象を持たれやすいと思う。

まず、スイス人を見ていて思うのが、心の余裕だ。つまり「心の豊かな人」が多い気がする。
様々なスイス人の友人や知人を見てきて、たまたまそういう人たちが周りにいるだけで、一般的にはそうではないだろうと思っていたが、やはり何かしら共通している点がある。
もちろん、心の余裕を持つ前提として、日々の生活が出来ていることもある程度条件となるであろうし、高物価なスイスで生きていくための十分な収入とも関係するだろう。

幾つか例に挙げてみたい。

有意義な休暇の過ごし方

友人のスイス人男性は結婚はしていないが、パートナーがおり同棲している。2人とも仕事をしているが、彼は仕事を毎年少しづつ減らしている。
彼の上司と会社と相談して、現在では週三日程度の勤務だ。当初は、自分の時間が欲しいという理由だったが、最近になって、余裕ができた時間を、老人ホームなどの施設でボランティア活動したいので、働ける場所がないか探しているのだと言うことがわかった。
まだボランティア受け入れ先は決まっていないが、自身の人生の中でやっておきたいことだそうだ。仕事を減らした分、収入も減っているはずだが、「時間」という貴重なものを得て、それを有効に人のために使いたいということ。
彼の中で何かしらきっかけがあったのかも知れないが、割と自然にそういう発想が出てきたようだ。

もう一人は、スイス人女性で既婚者。今年は夫婦で長期休暇を取る予定だそうで、なんと3ヶ月の休暇を会社に申請した。日本であれば、もう自分の席はないだろう。ほとんど無理なような話である。
しかも、彼女は会社でも最前線に立ってバリバリ働くキャリアウーマンで、社内でも特に優秀な社員だ。年齢もまだ30代で若く、入社してからどんどん出世している最中でこの長期休暇。
この3ヶ月の内訳を聞いてみたところ、夫婦には子供がいないので、まず1ヶ月の旅行。そして、1ヶ月は自宅の整理や自分のために時間を使うこと。そして、残りの1ヶ月は、前述の彼と同じ、老人ホームのような施設でのボランティア活動だ。

二人ともまだ働き盛りで、違う点は後者の彼女については、一時的な長期休暇の取り方だが、共通している点はやはり出来た時間を人のために使うことだ。家族のためでも身内の世話でもない、全くの他人のために。

スイスでは、世界で災害などがあると、TVなどを通じて募金をするのが一般的で、東日本大震災の時は、ものすごい金額が集まった。こうした大きな災害がなくても、普段から寄付をする人は多く、ごく当たり前のこととなっている。特に裕福でない家庭でも、恵まれない環境に育つ子供の施設に寄付をしたり、街角でも署名をしたりする。

スイスに住み、こうしたスイス人の博愛の精神豊かな側面を見てきて、心底感心するのみである。
こうした国民が育つ環境とはどんな要因があるのか?次回はそれについても書いてみたいと思う。

一方では、豊かさの反面、物質的に満たされて生まれる問題もあり、日本でもその点ではよく似ていると思う。
また、燃え尽き症候群という言葉が、メディアに出てくるようになって久しいが、精神面での問題を抱えたスイス人も実に多い。

物質的な豊かさと、精神的な豊かさのバランスが非常に大事であることに変わりはないが、日本とスイス、似ているようで違う点をまたテーマとして取り上げてみたい。