フランスやドイツなど冬の寒い地方は、ぶどうを発酵させる時、自然の
冷却効果が現れて天然の低温発酵が成されてきた。イタリアやスペイン
などは、冬も穏やかで、どうしても比較的高い温度による発酵が行われ
て来た。この発酵温度の差は、ワインの色にも影響するが、ブーケにも
強い影響を及ぼす。

フランスやドイツの上質なワインのブーケを表現するときは、花やフ
ルーツなどに例えられる事が多い。これが低温発酵によるブーケの特徴
となっている。一方イタリアやスペインなどの上質なワインのブーケ
は、ドライフルーツやナッツ、スパイスなどに例えられることが多い。
これが比較的高い温度による発酵の特徴である。近年イタリアやスペイ
ンにおいても、低温発酵を行わせる発酵設備の充実が図られ、昔のよう
なプルーンやアーモンドのブーケが豊富な南欧ワインが少なくなりつつ
ある。

これは、フランスやドイツの高級ワインが値段的にも高く売れ、鑑定家
も高い評価を下す傾向があるためだが、世界中のワイナリーがこの傾向
にあるために、逆に地域の特色が薄れつつある。

低温発酵に特徴的なブーケは、白ワインがバナナやメロンを連想するフ
ルーツの香り、赤がブルーベリーやラズベリーなどのベリー系の香り。

アルコール発酵が終わると、フランスなどでは二次発酵といわれる乳酸
発酵を行わせるのが一般的。これはワインの持つリンゴ酸を乳酸に分解
する発酵で、ワインにヨーグルトのブーケが乗り、味もまろやかにな
る。ただし、ドイツワインにはこの発酵は行わない。ドイツワインの良
さは豊富な酸味にあるため、この酸味を失わせる二次発酵を逆に行う
と、品質を低下させてしまう。

一般のフルーティタイプのワインは、この段階で瓶詰めして市場に出回
る。値段も手頃なものが多い。フルーティで値頃で上質なワインは、バ
ナナやメロン、リンゴ、イチゴ、ラズベリー、ヨーグルトなどの色々な
ブーケを持ち、口当たりも良く誰にも喜ばれる美味しいワインといえ
る。このワインを高級ワインと感じてしまう人も多い。

高級ワインと言われるものは、通常熟成といわれる次のステップを経て
市場に供給される。その代表的なものが樽熟成といわれるもの。これは
ワインを樫樽に保存し、この樫樽からタンニンと樽の香りを得るもの
だ。樽熟成を経たワインには、ハチミツや木の香りなどの特徴的なブー
ケが現れる。これが従来のフルーティなブーケに一層深みを与え、豊か
で複雑なブーケを醸し出す様になる。

一般的に高級ワインの要素として、単にフルーティだけではなく、この
豊かで複雑なブーケが求められる。樽熟成を行わせると、樫樽のコス
ト、熟成期間のコストがかかり、ワインの値段としても高価とならざる
を得ない。この様に必然的に高価になるため、高級ワインはフルーティ
タイプと比べ、高価になってしまう。

スイスも樽熟成を行わせ比較的高価で販売されるワインが多くある。多
くのワイナリーが自分のステータス商品として、この樽熟成のワインを
造っている。スイスでは、例えばロマネ・コンティの様にその名前だけ
で非情に高価になるワインはない。スイス国内で名の知れたワイナリー
でも良心的な価格で販売しており、通常フルーティタイプのワインの値
段が20フランを超えることはない。樽熟成を行わせたワインや特別限
定生産されるワインなどが20フラン以上で販売されている。このス
テータスワインは20-40フランの値段で売られることが多い。