ワインの原料となるぶどうには、通常ぶどう自体が持つ香りはほとんど
ない。しかし、マスカットなどの特有な香りなどを活かしたワインなど
もある。この様に数少ないながら、ワインが持つぶどう特有の香りをワ
インのアロマという。その他に、デラウェアーやコンコードなどから造
られたワインに現れる特有の香りもアロマに属するが、一般にこれらの
アロマはフォキシー・フレーバーと呼ばれ、あまり高い評価を受けな
い。日本人には馴染みのあるぶどうらしい香りなのだが、このぶどうら
しい香りが強烈すぎて、発酵から醸し出される複雑な心地よい香りを殺
してしまうからなのだろう。しかし、この巨峰の香りに似たぶどうらし
い香りは、フルーティに仕上がったワインとしては心地よい。

白ワインではマスカットなどのアロマが代表的だが、赤ワインのアロマ
はぱっとしない。上質なワインの若いもので、アロマを残すものもある
のだが、青臭い香り、青汁の様な香り、ホオズキを噛んだ様な香りなど
と評されている。表現としても、ぱっとしない。しかし、例えばカベル
ネ・ソーヴィニョン種などの上質なワインとなる品種で造られた若いも
のに、このアロマが残されている場合、将来素晴らしい熟成が期待出来
る指標ともなる。このアロマは熟成と共になくなってしまう。

マスカットのアロマも強烈で、他の香りを圧倒してしまう。しかし古く
からアラブ経由でヨーロッパに伝わったマスカットは甘口白ワインの原
料として定着した。収穫したマスカットぶどうを陰干しにし、糖度を上
げて甘口ワインに仕上げる。ワインの量は通常の半分程になってしまう
ため、値段も高いものとなるが、上質なものは貴腐ワインといわれる甘
口のワインに匹敵するものとなる。

スイスでもこの伝統的甘口のマスカットワインがヴァリス州で生産され
ている。また、マスカットではないが、陰干しによる甘口ワインを造る
所は、スイスのフランス語圏のワイン産地では沢山見られる。ヴァリス
州では、マスカットの他に、アミーニュ、プティ・アルヴァンなどで造
られる甘口ワインが知られている。ヌーシャテル州のシャトー・ドーベ
ルニールのピノ・グリで造られる甘口ワインも極めて質が高い。