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★ jp-Swiss-journal ━ Vol. 107 – May 10, 2009 (Swiss Time) ┃ http://www.swissjapanwatcher.ch/ ■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■

     国民投票 2009年5月17日
     「将来に補完代替医療」、「電子生体認証旅券」

     明子 ヒューリマン

今回の国民投票は、二つの議案がいずれも政府議会の修正提案で、有権者は賛成を求められている。

一つ目の「将来は補完代替医療」という議案は、健康保険の基本サーヴィスに再びこれらの医療サーヴィスを組み込むよう求めた国民発議が取り下げられ、その代わりにこのほど政府と議会の憲法条項修正対案が国民投票で問われる事になったものだ。

対象になっている補完代替医療は5つで、1. 人智医療、2. 漢方、3.神経療法?、4. 植物療法、5. ホメオパシー(同種療法、同毒療法、同病療法)。この中で経験しているのは漢方とホメオパシーで、他の3つは知らなかった。漢方に関しては日本では民間療法として長らく発展定着してきたし、現代医療にも取り入れられている。個人的にも漢方薬や鍼灸治療を受けてその効果は実感している。が、ホメオパシーに関しては副作用が無いからと勧められて砂糖粒を幾度か服用してはみたものの、その効果の程は実感するには至っていない。

漢方医療に関して言えば、スイスの治療院の治療費は日本と比べて大変高額だ。1時間足らずで150スイスフランは普通。スイス人の医師免許を持つ鍼灸医だけでなく、中国人鍼灸医による治療でも料金体系は同じだ。中国人鍼灸医が治療する場合は、あらかじめスイスの医師免許を持つ医師の診察を受けた後に治療が許可される。鍼灸治療は通常長期の通院が必要なので、自己負担だけならとても気軽には通えない。代替医療も受けられるかなり高額の医療保険に加入していればこそ受けられる治療だ。

5月4日付のNZZ紙で賛否に意見が分かれる二人の専門家による討論記事が掲載された。反対するのは国民議会議員でバーゼル大学病院の外科医ジョン=アンリ・デュノン氏で、賛成するのはエメンタール地方病院の代替医療科のハンスウエリ・アルボニコ主任医師。デュノン氏は代替医療に関する知識はないと言い、医療費は年間530億スイスフラン以上掛かっており、今秋には保険料が10%はおろか14%ないし20%にまで大幅に引き上げられそうだと指摘。今以上に基礎医療保険の適用範囲を広げる事には反対で、NZZ紙の立場も代替医療は追加保険で賄うべきで、基礎保険に適用すべきではないと表明している。一方、アルボニコ医師によると、勤務先の代替医療科の治療費は他の診療科と比べて特に高額にはないっていないと発言。医師に対する代替医療の教育訓練には費用が掛かるが、その効果はそれを上回ると語っている。

スイス国営放送SRGの世論調査は、5月6日の現時点で、選挙民の69%が政府議会提案を支持、反対は19%と報じている。将来的には補完代替医療が医療保険の基礎保険でも認められる見通しだ。

現代医学の進歩が日進月歩なのは良いのだが、場合によって極めて高額な医療費になる事への批判は常にある。又製薬産業はスイスの主要産業で輸出の稼ぎ頭の一つでもある。一方自然志向の高まりと共に、代替医療は近年急速に認知されてきているのだが、その医療サーヴィスを担う医師は未だ圧倒的に少ないように思える。医師の訓練には長い年数を要するだろう。日本では、漢方は民間療法として発達してきた側面がある。鍼灸師でなくても、マッサージや指圧、お灸等が家庭内で行われてきた伝統があり、筆者も自分なりに工夫して生活の中に取り入れている。今代替医療の適用を基礎医療保険で認めれば、医療費はやはり増加して、保険料の値上げにも歯止めがかからなくなりそうだ。個人的には未だ時期尚早という気がする。先ずは、代替医療を民間医療として官民挙げて啓蒙活動することにして、基礎保険の対象にするのはもっと先で良いと思う。

二つ目の生体認証旅券の導入は、2010年3月からシェンゲン協定の相手国がスイスに生体認証旅券の導入を義務付けている為。既に世界の50カ国がこの旅券を導入しており、シェンゲン諸国では2006年8月から義務付けられている。スイスの導入は国際協調の観点からこれ以上は猶予無し、という状況のようだ。生体認証旅券を持っていると、90日間以内の滞在の場合は米国へ査証無しで入国、あるいは通過出来るようになる、というのも導入の1要素としてあげられている。この旅券、成人は140スイスフラン、子供は60スイスフランと可なり高価だ。最もIDカードも一緒に申請すれば、IDカードは8スイスフランで済むそうだが。

電子情報ゆえに先ずデータの安全管理に対する国民の懸念は根強く、データが出入国審査の際に盗まれたり、ハッカーに改竄されたり、データセンターから流出したり、盗難に遭ったりと不安は尽きないようだ。実際のところ、古いデータ読み取り機で不備が発見されたと連邦通信局の
報告も報じられている。この旅券には写真と共に指紋も記録されるので、犯罪者と同じに扱われたくないという抵抗感も根強いようだ。エヴェリン・ヴィドゥマー=シュルムプフ法相も、警察がこのデータバンクにアクセスする事は出来ない、と語って国民を慰撫した。

国の監視を嫌うか、旅行の自由か、というのが争点のようだが、この件に関する国民の関心は低いそうだ。筆者も個人的には米国に行く予定はないし、行きたいとも思っていない。ましてやデータが完璧に安全に管理される等とも思っていない。実際、米国の諜報機関が全世界のインターネット上のデータを傍受していると一時盛んに報道された事もあったし、今以上にデジタル情報には頼りたくないという気持ちはある。スイス国営放送SRGの世論調査では、5月6日の時点で未だ賛成が過半数に達しておらず、過去数週間国民の姿勢に変化は殆ど見られないので微妙な情勢と報じられている。が、この問題、永世中立とは直接関係なさそうなので、やはり国際協調という観点からすると、スイスが孤立の道を採る選択は望ましいことではなさそうだ。

【参考】
連邦政府: www.admin.ch、連邦議会: www.parlament.ch
スイス連邦: www.ch.ch
日本補完代替医療学会 http://www.jcam-net.jp/ (J/E)

【編集後記】

今回の議案では、政党間の著しい対立も見られず、賛否の宣伝合戦も殆ど見られなかった。気掛かりなのは、若し生体認証旅券が否決された場合だ。取り敢えずは、承認される事を願うばかり。代替医療は特に女性の関心が高いと報じられているが、科学的証明が困難という専門家の見解から、導入までには今後紆余曲折が予想される。

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