6月10日、バーゼルの郊外にあるアーレスハイムのアトリエハウスにて、東亭順さんの個展が開催されました。
この日は、オープニング アペロという事で多くの人が集まり、お寿司や蕎麦など、日本の料理も振る舞って下さいました。
また、作品の展示と現在日本から来訪されている烏山さんとの、ライブパフォーマンスもありました。
その様子を写真とともにお伝えして行きます。*写真はクリックで拡大します。

SWN: まず、東亭さんがスイスに来る事になった経緯を簡単に教えて下さい。

東亭: ポーラ美術財団と文化庁からの助成金を受けて、iaabのエクスチェンジプログラムに受け入れていただきました。
来年冬より東京ワンダーサイトとiaabが本格的なエクスチェンジプログラムをはじめるので、毎年違う日本人アーティストがバーゼルに3ヶ月間制作しに来ることになります。

SWN: 今回の個展のテーマは?

東亭:Thresholds : 敷居、入り口という意味のタイトルをつけています。

僕の作品では、写真の上にペインティングをしていて、写真なのか絵なのか?という問いを多く受けます。
また、円形の作品は天地を強要しないので鑑賞者が自由にベストな見え方をそれぞれに決められるよう、床面から1mの位置に水平に並べてみました。そうすることでそれぞれが見ている/見えている世界の違いをお互いに認識できる装置になりえるのではないかと思っています。正解なんてない、答えは自分で決める。というのがテーマです。
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SWN: 満月のようなお皿は、どのように制作されたのでしょうか?

東亭: スイスで市販されている鍋置きをパネル代わりに使い、その上に昨年日本で撮影した桜の写真をインクジェットで出力したプリントを貼り、アクリル絵具と水性ニスを何層も塗り重ね、紙ヤスリで磨きあげたものです。
前回のオープンスタジオでは、ライン川のすぐ近くのSt.Albanにスタジオがあったこともあり、そこで撮影したものを同様の手法で制作し、展示しました。この手法は2000年から続けています。
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(壁に施されたアートは、テープによるもの。)
SWN: 壁に貼られたテープも、月のクレーターに見えて、お皿とうまく融合されてますね。

東亭: 壁にはマスキングテープだけを使った作品をつくりました。こちらのマスキングテープは粘着力が弱く、すぐはがれてしまうのでニスやノリを上から塗って定着させています。そのせいもあって、面白い質感が偶然うまれ、円形絵画との質の対比効果がうまくでたようです。

この作品も「Thresholds」というタイトルをつけています。
本来マスキングテープは、塗料を塗りたくない箇所を保護するためにテープでカバーしますが、この作品はテープ自体に塗料を塗っています。また、本来であれば塗料を塗りたい箇所に最低限のテープでカバーすればいいところを、無駄ともいえるくらい全面にテープをはりめぐらしています。これは本来の用途を無効にしていますし、新しい用途とも言えるのではと思っています。いわゆるモノ自体の境界ということです。
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作品に使ったテープを手にする、東亭順さん。
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今回、初のドローイング展となった奥様のアンズナオさんの作品。
何メートルにも渡り描かれたのは、バーゼルのライン川の風景。

アンズナオさんから作品について:
今回展示しているriverineは私が去年7月からバーゼルに来てから撮ったライン川沿いの写真を元にしたり、実際にその場で見たりした風景、動物、植物などを自由にポストイットにボールペンと修正液を使ってドローイングしたものです。川沿いを歩いている時に目に入ってくる景色の様々な表情、心地よい雰囲気をドローイングから感じてくれたら嬉しく思います。
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今回、長崎から参加された烏山秀直さんの作品
青を基調とした正確な平面が目を引きます。

烏山さんから作品について:
ある思考や制作を行なう時、私的な方向へ向かったり、他者を意識する方向へ向かうように、絵画もまず一つの行為(タッチ)と、それによってつけられた素材(メディウム)から制作は始まっていきます。
ある考えや経験の元によって得られた模様を借り、行為と素材を繰り返す、つまり更新することになりますが、全て身体を使用しているので差異(ズレ)が生じ一見同じような模様を描いていても全て異なるものを描いている、とも言えます。それらによって平面上に出来た多くの模様が連鎖し新たな模様を出現させ、果ては平面上以外の描いていない壁にも広がるように、またはその逆で絵具の中の顔料を一粒一粒を見ているような、そのような感覚に他者が陥っていけるよう心掛け、一人制作を行なっています。
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東亭さんと烏山さんの、アートパフォーマンス。
窓の外側と内側に分かれて、シールにした写真を交互に貼って行きます。
SWN: パフォーマンスでは、何かルールがあるように見えましたが?

東亭: スイスの窓は日本と違って二重窓ですので、そこにある隙間をうまく使えないかなと思い、いろいろと考えていました。
オープニングのタイトルを「東京ナイト」としたので、友人作家の烏山君に撮影してきてもらった日本の風景を外側に貼り、僕がこちらで撮影したスイス(主にバーゼル)の風景を内側に貼ることで、内側と外側/表と裏がミックスされることで、それぞれの風景の違いを鑑賞者が楽しめるのではないかな。と思いこのパフォーマンスを実行しました。
難解なルールは特に設けずに、各々の考えのもと色であったりカタチであったりモチーフであったり、その時に各々が連想するものを自由に選択して貼りました。簡単にいうと各自の美意識のもとで全体感/構成のバランスを意識してのパフォーマンスです。
よく制作中に画面が次の描くべき箇所を導いてくれる。と絵描きの間で話されることがあります。今回のパフォーマンスでは、画面でなく生きた人間がリアクションしてくれて、次の一手を導いてくれました。
なので、相手の思考を先読みしたり相手の一手によって次の一手を生み出す勝ち負けのないゲームのように見えたのではないでしょうか?
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(近づいてみると、確かに窓の表と裏で立体感が出ていて、あんなに薄いシールが立体感を出しているのは驚きでした。)

SWN: 今後のスイスでの活動について

東亭: 7月8月とハンブルグに滞在し、グループ展に参加する予定です。
来年にはバーゼルとチューリッヒのギャラリーで展覧会に参加する予定です。

SWN: ありがとうございました。今後の東亭さんの個展の情報も、スイスワンダーネットでお知らせして行きたいと思います。欧州での更なるご活躍を応援いたします。

★東亭さんの個展は6月23日まで開催されています。
場所は、下記のアトリエハウスのサイトからご覧頂けますので、ご興味ある方はぜひ足を運んでみてください。
http://www.atelierhaus-arlesheim.ch

東亭順さんのオフィシャルウェブサイト
http://junazumatei.net/

アンズナオさんのオフィシャルウェブサイト
http://www.anznao.net/

烏山秀直さんのオフィシャルウェブサイト
http://karasuyamahidetada.web.fc2.com/