無言の差別

何気ない日常生活で感じること

在外邦人の方々は、その滞在期間や滞在理由によってその生活環境は様々ですが、この国の人から見れば、そんな事は関係なく、見たまんまの外国人として認識されます。つまり1歩外に出れば、自分の常識とは違った世界へ飛び込んでいくことになります。それが、仕事であっても、買い出しであっても同じです。

少なくとも、仕事であれば、自分が何をしている人なのかは認識され、同僚もいるわけですので、ある程度認知された状態で過ごせます。

しかし、日常生活に飛び込む場合は、どんなに偉い地位の人でも、「外国の人」という位置付けです。

そんな日常生活で、色々と感じる外国人の不満というか、ストレスみたいなものは、ごく小さなものから始まります。

例えば、スーパーのレジで勝手に順番を抜かされるとか、挨拶をしてもらえないとか、無視されるとか、じろじろ見られるなど、気にしなければ、どうでもいい些細な事です。

しかし、それが毎日、毎週積み重なると、どんどん膨んでいきます。

そして、いつかそれを差別だと認識して、怖くなり、家から出るのが億劫になる人もいます。

差別への感覚が鈍る人、敏感になる人

海外滞在期間と経験により、やはりこの(差別を受ける)感覚は差が出てきますし、感じ方も人それぞれです。

毎日の仕事や生活に満足している人は、心の余裕があり、何か嫌なことがあっても、すぐに忘れて、その嫌な気持ちを溜め込まないようにしています。

しかし、まだ慣れない異文化や言語で悪戦苦闘しながら、現地の生活に慣れようとしている人は、どうしても心の余裕が足りないことも多く、その小さな嫌なことを溜め込みがちになります。

5年、10年、20年と海外生活が長くなるにつれ、生活習慣も身に付き、言葉も問題が無くなります。そうした人は、例えば、差別行為をされても、受け流してしまうようになる人もいます。長年にわたり何百回としているような「小さな嫌なこと」なので、もう反応しなくなっていると言ってもいいでしょう。差別に気がつかない人もいます。

しかし、一旦気にし始めると全てを悪い方向に考えてしまう人もいます。そうなると、相手が差別をしていないのに、半ば被害妄想的になり、差別をされたと感じます。嫌な思いをしたのは、自分が外国人だからと思ってしまいます。

長年の感

ただし、長期の在外邦人の人たちは、差別行為をあまり気にしなくなっているものの、そうした場面において、相手が果たして自分が外国人だから言っているのか、そうでないのかは、長年の感でわかるようです。

私自身もおそらく、長期の在外邦人に入ると思いますが、相手の言葉のニュアンス、態度、例えそれが無言であったとしても、差別的かどうかは感覚的にわかってしまいます。

残念ながら、そういう傾向は、高齢のスイス人の方に多く感じます。これは偏見でも思い込みでもなく、そういう人は、平気で失礼なことを言ってしまうので、日本人以外の外国人に失礼な会話をしているのを聞いたこともあります。もちろんスイスの高齢者が皆そうなのではありません。

彼らの世代では、それが当たり前で、ほぼ無意識に口から出ます。差別とは思われてなかった時代のまま会話をするとかなりの誤解を生んでしまいます。それは、日本に住む日本人高齢者も同じかもしれません。

スイスは比較的あからさまな差別が少ないように思いますが、思った以上に小さな無言の差別は、あるのかもしれません。

コロナパンデミックも一つの引き金に

スイスでは、もうコロナウィルスの話をする人は少なくなりました。しかし、パンデミック当初は、やはりかなりの偏見と差別にあった人もいます。欧州では、最初イタリアで爆発的な流行が始まりましたが、その時期は、スイスでもイタリア人が差別を受けたそうです。そして、発生源である中国の人も差別を受けましたが、スイス人からみて、誰が中国人なのか、日本人なのかはわからないため、アジア人全般が差別対象となりました。

トラムやバスで、消毒液をかけられた人もいれば、道を歩いていたら、向こうから来た人が口を押さえて、反対側に避けて行ったとか、「コロナ、コロナ!」とアジア人に声をかけている若者もたくさんいました。実際に在スイス大使館にも、被害の報告があり、注意喚起も出ていました。また、アメリカでは、アジア人が襲撃される事件も多発したので、覚えている人も多いと思います。

ロシアの戦争も然り、何かしら世界の情勢が不安定になると、誰のせいなのかという粗探しが始まり、必然的に差別につながります。

我々在外邦人は、外国で生活している以上、差別をされる側になるとは思いますが、逆に自分が差別をしてしまわないように気をつけることも大事です。前述のコロナパンデミックでは、在外の日本人が中国人に間違われたくないために、あちこちで中国の批判、差別発言をしていたという話も聞きます。

無言の差別には、確証がない限り、言い返したり、文句を言うのも難しいですが、もし、明らかな差別行為を受けたなら、勇気を出して、周囲にも聞こえるように文句を言えば、助けてくれる人もいるはずです。

スイス人のパートナーや友人に相談するのも良いかもしれません。あまりにひどい場合は、差別行為として、通報することも可能なスイスです。

皆が気持ちよく暮らせるように心がければ、そうした問題も減るはずです。