英語の次は中国語を習おう、そう薦めるのはチューリッヒにあるプライベートスクールLip-Schule。スイスでは国語が4つあり、ドイツ語、フランス語、英語を問題なく話すスイス人は多く、語学に長けた国である。

 一部カントンでは、チューリッヒなど、ドイツ語圏になるが、第2外国語をフランス語から英語にシフトする傾向もあって、更に英語の重要性を訴えている風潮だったが、ここに来て中国語とは意外だ。

 急成長を続ける中国経済。オリンピック開催に伴って、チベットの問題や人権問題、環境問題など、様々な問題が取り上げられる中で、確かに世界の注目度は高い。

 ある大学の言語と子供の脳の成長に詳しい教授によれば、多くの子供は、3歳くらいまでは約13の外国語をそれぞれ違う言語として認識できるのだそうだ。もちろん全て理解すると言う意味ではないが、脳に柔軟性があるうちは、どんな言語でも習得可能であり、大人に比べても習得が早い。確かにこのくらいの年齢の子供は、車や自分の好きなものの名前を教えもしないのにたくさん覚えていたりする。

 この中国語教育はアメリカでは既にブームになっていたようだが、少し前はベビーシッターを頼んだら、中国人の女性が来て、子供が中国語を知らないうちに理解するようになっていたという笑い話があったが、それが今は現実に増えてきているようだ。カナダを含め、北米に移住する中国人の数は、香港が中国に返還されてから一気に増えた。中国人移民が多く集まる地域では、学校のクラスの半数近くが中国人を占め、アメリカ人の親が子供を転校させたという話しも聞く。

 話をスイスに戻すと、スイスにとって、やはり中国は将来的にも重要なビジネスパートナーになり得るという考えと、子供に将来国際社会で活躍してほしいという希望のもと、中国語を習わせたいという親がいても不思議ではない。

 しかし、はたしてそこまで必要性があるのかと言う意見も多く、いくら言語の得意なスイス人でも、アルファベットを使わない外国語をそう簡単に習得できるとは思えないし、母国語であるドイツ語やフランス語に影響が出かねないうえ、子供にとっては相当な負担になるのではないか、との意見も。また、あまりに多言語で育った子供は鬱にもなりやすいなど、懸念材料は多い。

 この学校も無理強いはしない事としているようだが、片親が中国人であればともかく、両親がスイス人で、本当に3歳から学習が必要な言語かどうかは疑問だ。いくら習っても、その後、興味がなくなって使わなくなったらあまり意味はない。

 我々日本人でも、特に海外にいたり、PCで文書をタイプする生活が当たり前になると、使わない漢字は読めても書けなくなるのと同じだ。昔、どこかで読んだ記事で、日本人のノーベル賞受賞者が他の国に比べて少ないのは、母国語の習得にかかる時間が、英語に比べて倍以上かかるうえ、英語の文献などを読むにしても、訳して理解する事に脳が使われてしまうため研究発表などの機会が遅れ、欧米人に先を越されてしまうといった事が書かれていたが、そのくらい漢字とアルファベットでは、言語の基本が違うと言う事であろう。

 どんな言語でも確かに学習は可能であるし、小さいうちから多言語に触れる機会は、ないよりはあった方が良いと思うが、子供に意思に反して強要することだけは避けなくてはならないだろう。