スイスの教育システムから外れてしまう子達

日本と同じ、中学までは義務教育

スイスにおいても、中学校までは義務教育となりますので、公立私立に関わらず、皆が学校に通います。

大きく違うのは、その後の進路ですが、既に中学の時点で、その準備がなされます。

各カントンや自治体で多少システムの差はあるものの、中学の時点で、3段階のクラス分けがされるカントンのケースを紹介します。

(成績別に分けないカントンもあります)

小学校の5、6年生の成績を元にして、進学する中学校のクラスが分かれます。

大まかに分けると以下のようになります。(カントンによっては中学からギムナジウムの名称の場合もありますが、中学以降は基本的には同じです。)

・中学を卒業後、職業研修の道へ進むクラス。

・専門学校の道に進むクラス。

・大学を目指すギムナジウムのクラスとなります。

スイス人の間でも、職業研修の道に進む場合、職業選択をする年齢が早すぎるということが度々言われます。

15歳前後の時点で将来の職業の方向性をある程度決めなければなりませんので、確かに早い気もします。

しかし、無事に4年間の研修を終えれば、手に職ができその後の転職も可能です。

専門学校の道に進むクラスは、例えば経済専門学校へ進んで、会社の事務職などに就くケースや、幼稚園、小学校の教員を目指す人。

技術者やIT系の専門学校に進む人など、まだ就職はしないが、専門的な知識を身につけた上で、将来の職業の方向性を決めます。

つまり、前述の中学の後、職業研修の道へ進む生徒たちよりも時間的な余裕があります。

最後は、大学を目指すギムナジウムコース

ここでは、大まかな分野(理系文系)を選択して、自分が学びたい学問を決めます。

基本的に、スイスのギムナジウムを終了すれば、大学に入学する資格が与えられます。もちろん大学以外の道を目指しても構いません。

大学入学には、ギムナジウム修了証があれば、試験はないのですが、海外からの生徒の場合は、試験を科す場合があるそうです。

ちなみに、大学入学後の1期目の終わりに試験があり、そこで成績を満たさない生徒は、退学か留年となります。

非常に厳しいので、日本の大学のように、入学すれば何とかなるわけではなさそうです。

コースを変えたり、専攻を変えたりして、何年も大学生をやっている人も珍しくありません。

義務教育以降は自由

このスイスの教育システムも義務教育以降は、様々な選択肢があるので、基本的に自由です。

ほとんどの人が、どの道に進んでも、何かしらの技術や知識を身につけて、就職につながるように、よく出来ているシステムですが、この道から外れてしまう人も中にはいます。

よく聞く例は、職豪訓練制度の4年間を終了できず、新しい職業訓練を始めては辞めるというパターンです。

これは多くが能力的な問題ではなく、本人の気持ちの問題の場合が多いようですが、家庭で問題を抱えているケースもあります。

知人の中には、職業訓練中にも関わらず、両親が定年して海外に移住してしまったために、生活が困難になり、職業訓練を途中で辞めてしまったという例もあります。

18歳の成人になったあと、両親が離婚したり、子供が親との関わりを拒絶したりして、まだサポートが必要な年齢にも関わらず、孤立してしまう若い人も多くはありませんがいます。

そうした家庭の問題がある、若い子たちに声をかけて、研修生として自分の会社で雇っている知り合いもいるくらいですので、思ったよりそうした人が多いことに驚きました。

やはり多感な時期でもありますので、間違った道に進んでしまうケースもあります。

中学卒業後に何もしない子も

この例は、多分珍しいケースで、あまり聞かないと思うのですが、ある知人の子供が、小さい頃から病気で学校を休みがちになり、中学校も馴染めずに、何度か転校を繰り返して、結局卒業後は、職業訓練の道にも専門学校にも進まずに、毎日フラフラしているという状態だそうです。

10代なら、まだいつでも何かを始められると思いますが、その子は、小さな頃から病気を患っているということを理由に、親がなんでも許してしまうという環境で育ったため、嫌な事はすぐ諦めてしまう傾向にあったようです。

また、課外授業や遠足、スキー合宿など、泊まりがけで親の目が届かない活動は、親が欠席届を出して、参加させてもらえませんでした。本当はその子は行きたかったのではないかなと思ったこともありますが、それが更にクラスの子たちとも距離を置いてしまうことになり、馴染めずに転校を繰り返したように感じます。

小さな頃から子供の意見を聞いて尊重するという傾向にあるスイスの家庭ですが、それがいかに重要かが分かります。

親が勝手に何でも決めてしまうと、子供も自分で判断できなくなり、失敗を恐れます。

結果、親が決めた就職先でもうまくいかず、ドロップアウトしてしまうなんて事は、スイスに限ったことではないかもしれませんが、職業訓練システムからも漏れてしまうと、なかなか社会に馴染んで生きていくことが難しくなります。

せっかく、良いシステムの下で教育を受けても、こうした状況に陥る人もいるので、大事になるのはその受け皿的なシステムでしょう。

そうした若い人たちを支援する団体や個人もあります。例えば、いわゆる質屋のような業者において、教育課程で問題のあった人たちを雇っている場合もあります。

良いと言われるスイスの教育システムも、完璧だという事はもちろんあり得ませんが、近隣諸国などに比べてうまく機能しているのではないかと思います。