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スイスの病院で見た医療従事者の働き

コロナウィルスに翻弄される社会

スイスでの感染拡大が勢いを止めることなく推移しています。今週水曜日には、緩めの規制強化が発表されましたが、PCR検査も15分で結果がわかるようになり、検査数も当然ながら増えています。これまでスイス政府の対応を比較的評価をしていた人も、少し緩い規制ではないかと思っている人が多いようで、各州の学校でも対応が統一されていない様子です。
このままだと病院のキャパシティーがいっぱいになり、もしかすると検査が増えたおかげで春よりも逼迫した状況になる可能性も指摘されています。特にこの第2波は若い世代の感染が増えているようです。

薬をもらってまた家に帰る予定が、、、

こうした時期に、ひょんなことから3日間ほど急遽入院することになり、医師や看護師の方々の働きを目の当たりにしてきましたので、少しレポートしたいと思います。別棟にPCR検査の会場もあり、一番行きたくなかった場所に数日滞在することとなりました。

突然入院することになったので、なんの準備もないままでしたが、救急病棟から各検査、病室、入院生活まで感心しきりでした。病院へは誰かの見舞いに行くことはあっても、まさか自分が入院するとは思っていませんでしたが、スイスの病院がどのような感じなのか垣間見れた気がします。

まず救急病棟では、受付を済ますとすぐに基本的な血圧や心拍数をチェックしますが、予期せぬ状況にかなり高めの数値が出ました。まあよくあることだということで、スタッフも落ち着いていたのが印象的です。ちなみに今回は、事故や怪我ではなく、緊急検査のためでした。

救急病棟の常駐医師が診察し状態を確認します。採血をして、結果を待つ間に専門医に引き継ぐため移動します。案内役のスタッフが別室まで案内してくれました。すでに連絡を受けていた専門医は、準備ができており診察開始。
その診察中に血液検査の結果が出て、担当医師に連絡がきます。検査の結果、炎症を起こしている箇所があるため、それを突き止めるためにCTスキャンをしますということで、そちらも即準備ができ、CTスキャンの検査室へ入ります。そして、ようやくここで原因が分かり、「数日間入院して頂き、投薬治療します」と言われました。

原因を突き止めるまでの流れがあまりにも早く、しかも、数日入院してもらいますと言われ、ずいぶん一方的な宣告だなと思いましたが、医師がそう判断するのであれば、必要な措置だということで、選択の余地はありませんでした。かかりつけの医者に行って、薬をもらってまた家に帰る予定が、そのまま数日間の入院に。あまりの展開の早さに正直呆然としていました。同時に、人の命を救うにはこのくらいのスピードでないとダメなんだなと思いました。

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入院患者の情報とプライバシー

晴れて正式な入院患者となった自分は、一旦救急病棟に戻り、早速投薬治療の準備を始めます。あっという間にチューブが繋がれ、そのまま車椅子に乗せられて入室。入院生活の開始です。
間も無く、担当医師が投薬治療の説明をし、看護師の方がテキパキと準備します。医師にも看護師にも患者の情報が共有されます。

移動式のパソコンを使い、データ入力して行きます。ちなみに職業や住んでいる環境、家族構成なども聞かれました。ベッドの横には、タブレット式のTV、ラジオ視聴、インターネットができるスクリーンがあり、まるで飛行機のビジネスクラスのような装備。電話もついていて、スマートフォンを持っていない人も家族へ電話をかけることができます。

二人部屋で、手術のために1泊入院の年配のお隣さんと挨拶をすると、とにかく人と話すのが好きらしく、10分ほどで彼の人生の半分くらいを語ってくれました。

スイス人は話好きの反面、人見知りで、最初は距離を置くタイプが多いです。しかし、病室という狭い空間では、そうではないのでしょうか?まあ、自分としては隣のベッドでずっと黙っていられても息苦しいので、ちょうど良かったです。

ただ、患者が医師と話をする際は丸聞こえです。どこが悪いか、今後の処置はどうかとか、そうした内容は筒抜けです。まあ自分はあまり気にしないので、良いのですが、病名など知られたくない人にはちょっと気になる点です。

最初の夜はあまり眠れず

チューブが繋がれた状態で、いつもと違うベッド。眠れないのは覚悟しておりましたが、今回は投薬治療なので、夜中や明け方でも時間がくると看護師の方が、チューブの差し替えをしにやってきます。辛いのはうとうと眠りかけた明け方の点滴交換。注射針を起き抜けに刺され、採血もされて、なんとも非情な寝起きでした。きっちり時間通りの治療に感心致します。

2日目は別の患者さんが入室

翌朝、お隣さんは無事退院。そして午後には、すぐ別の患者さんが入ってきました。自分と同年代でしょうか。鼻の手術をしたようで、包帯で巻かれた顔は、ボクシングの試合の後のようです。

それにもかかわらず、よろしく!と挨拶をしてくれ、このスイス人の人も10分くらい自分の人生を語ってくれました。結構プライベートなことまで話すので、まるで何年も前から知っている友人と話しているようでした。

会社経営者で、二十人の従業員を抱えているそうで、その分話はなかなか面白かったです。いろんな国を旅した経験もあり、日本にも興味を持っていました。

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多くの人が働く病院、社会との温度差

入院中は、医師、看護師を始め、実に多くの人が働いているのを観察できました。患者の食事メニューを毎朝確認しにくるスタッフ、清掃スタッフ、院内を案内するスタッフ、ほとんどのスタッフがタブレットやコンピュータに仕事内容を入力して行きます。情報が共有されれば、院内のどこにいても患者の様子を知ることができ、毎朝の医師による診察時間では、夜中に体調を崩したことや発熱したことなど、全て共有されます。

時には研修医の人も一緒に部屋にきて、主治医と患者の会話を一生懸命メモっていました。どのスタッフもとにかくフレンドリーで、礼儀正しく、挨拶をきちんとします。患者に処置を施す際は必ず患者の名前を呼びますし、非常に教育されている印象でした。時には冗談を言ったりして、常に患者の不安をほぐしてくれるような看護師の働きには本当に頭が下がります。

現在スイスは、コロナウィルスの第2波で病院の状況も日々変わっています。病院スタッフには間違いなく大変な時期が来ようとしていますが、それでも、その大変さを顔に出しませんし、病院内にも不穏な空気もありません。常にきつい仕事だからこそ、その程度では動じない医療従事者の強さも見た気がします。マスク着用義務になったり、夜のお店が閉まったり、色々と制限されることで世間は大騒ぎしていますが、それとは別次元で働く病院スタッフの方を見て、今年は旅行にいけないとか、パーティーができないとか、そうした不満を漏らしている社会との温度差も感じました。

今回の自分のように、コロナウィルスとは関係ない病気で入院したり手術したりする人は日々いるわけで、不用意に夜の街に遊びに出てウィルス感染してしまい重症化すれば、病院のベッドが一つ埋まるわけです。スイスのコロナウィルス感染者の数字を見れば、それが各病院にとって大変なことになるのは当然です。入院し、医療従事者の方々の大変さを間近で見て、一人一人の行動が大事になってくると改めて思いました。

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