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スイスに於ける金融危機の影響

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★ jp-Swiss-journal Vol. 105 – March 01, 2009 (Swiss Time)
http://www.swissjapanwatcher.ch/
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     スイスに於ける金融危機の影響

     明子 ヒューリマン

世界不況の荒波が吹き荒れる最中、スイスの現状も語らなければ済むまい
と思い至った。荷の重いテーマではあるが、生活者の視点で考えてみた。

金融危機が勃発して先ずスイス社会を揺さぶったのは、スイスの大銀行
UBSの経営危機だ。個人の預金者や株主は多く、社会的な影響は想像を
超える。正に大きすぎて潰せない事態のようだ。連日のメディアの取り扱
いは数年前にスイス航空が破綻した時を彷彿とさせる。スイス政府は心な
らずも救済策を決めたものの、同行の高額な役員報酬等が批判の俎上に上
り、論争は果てしなく続く気配だ。更に追い打ちをかけるように、2月
19日のメディアは、米国の司法省がUBS米国現地法人に対して300
口座の米国人顧客情報の提出と7億8千万ドルの罰金を命じる通知をスイ
ス政府に送り、政府がこれに屈したと報じた。UBSの罪状は顧客の脱税
幇助だそうだ。UBSのクーラー会長はインタビューで、「我々は過ちを
犯した。外国の法律を厳密に精査せずに投資アドヴァイスをしてしまった
。」と反省の弁を述べた。翌日からの新聞各紙の報道は、「最早スイスの
銀行守秘義務は伝説と化した。」等と悲観的で、米国によるUBSへの追
及は今後更に続くと予測している。

スイスと米国の二国間協定には、スイスの銀行守秘義務が認められている
にもかかわらず、各政党は、今此処に来てスイスの国の尊厳を蹂躙する行
動に出た米国には不信感を、又圧力に屈した政府に対しても非難の大合唱
を展開している。EUもいずれ米国に習うだろうとの指摘が現実のものに
なりつつある。最近ベルリンで金融危機とタックスヘイヴン等に関する
EUの特別首脳会議が開かれたが、金融では主要なグローバル・プレイヤ
ーであるスイスは、今年4月2日にロンドンで開催されるG20のサミット
に英国が招いてくれる事に期待を寄せているのだが、これまでのところス
イスは招かれていない。因みにイギリス連合王国の領土内には数多くのタ
ックス・ヘイヴンが存在している事は広く知られているところだ!お先真
っ暗の経済情勢にある周辺諸国の首脳の胸の内は、メディアの写真で正に
暗澹たる有り様が伺えた。スイスでは税金回避を刑法の対象とは規定して
いないので、誰でも税率の低い国(例えばスイス)に資金を預けておける。
この点が諸外国の法律と噛み合わない難点だ。スイスの税率は各州が独自
に設定しており、州別格差はかなりな水準になっている。EU諸国の税率
はおしなべて高く、英国では消費税率引き下げ案さえ聞かれるようになっ
た。とにかく、スイスは金融立国としての正念場に立たされていると考え
る人が多いようだが、例え銀行の守秘義務規定が無くても、スイスの伝統
的な銀行業務には充分競争力がある、という識者の見解も見受けられる。
エヴェリン・ヴィドゥマー=シュルムプフ法相は、懸案事項の協議のため
米国に出向く予定が報じられているので、成り行きを見守りたい。

スイス政府は昨年11月に第1段の景気刺激策を素早く発表したが、今年
2月になって更なる7億スイスフラン相当の財政出動を発表した。が、次
なる財政出動が既に視野に入っていると報道され、正に果てしない税金投
入の様相を呈している。連邦政府の2007年の歳入は581億スイスフ
ランで、最も大きな割合を占めているのが消費税の197億スイスフラン。
商品やサーヴィスによって税率が異なる現在の消費税率を一律に改正しよ
うという動きが議会内で再び始まっている。スイスの政府は小さい政府と
言ってよい水準ながら、中小企業からは金融にばかり援助するのではなく、
もっと我々にも支援が欲しいという声が高まっている。日本同様スイスと
て産業の中で中小企業が占める割合は圧倒的に多い。企業の人員削減が度
々報じられるようになり、雇用不安を感じている国民は少なくない。不況
感の高まりは次第に切実になってきている。特に見習いを終えた若い労働
者の就職先が先細っていると言われ、深刻な社会問題になりそうだ。ここ
で議論の俎上に上ってきたのが、「ポスト・ファイナンス(郵便貯金)に
銀行業務の認可を与えるべき時が来た」、というテーマだ。従来ポスト・
ファイナンスは膨大な預金を国外に投資せざるを得なかったわけだが、こ
れは国益にそぐわないという見解だ。因みに郵便貯金のポスト・ファイナ
ンスを含むスイスの郵便事業グループは、未だ連邦政府が事業主の公益法
人だが、顧客本位のサーヴィス提供と収益性を追求する競争力のある事業
方針は今後も堅持されるようだ。
http://www.post.ch/en/index/uk-schweizerische-post/uk-konzern/uk-geschichte

スイス国民は小さくて効率の良い政府を望んでいると昨年12月18日付
ターゲス・アンツァイガー紙が報じた。今以上に節約を求められた歳出は、
難民対策64%、行政63%, 軍隊62%、外交56%。開発援助に、も
っと節約を求めた国民が41%なのに対して、現状で良いという意見が
44%と上回った。現状で良いという評価を得たのが、司法62%、道路
建設60%、警察54%、スポーツ54%、郵便やエネルギー等のインフ
ラストゥラクチャーは62%、文化57%、環境63%、公共交通63%、
農業61%、身体障害者保健が44%、僻地対策56%、研究53%、健
康51%。国民年金は現状で良いが40%なのに対して、国庫負担の増額
を求める声が49%、教育は49%が現状を支持しているのに対して、増
額を求めた人は42%となっていた。兎に角スイス人の意識としては何と
言っても地方自治が基本だ。

健康保険については、1億スイスフランの赤字になったという報道があっ
た。高額な医療費と基金の投資の失敗が主な要因だそうだ。連邦政府は健
康保険基金の投資戦略は堅実でなければならないと、検査に乗り出すそう
だ。在宅介護を請け負っているSPITEXの費用が、頻繁に介護が必要
な場合、介護施設に入居するより大きな費用負担になるそうで、健康保険
各社は一定額以上は支払わないと言い出している。線引きされる額がどの
位の水準になるのかが懸念されている。生涯在宅を目指していても、希望
通りにならない危惧が出てきた。同じ保険でも生命保険は保守的な投資方
針で運用されていたため、噂されていたよりも健全で、被保険者の最低金
利と保険金は確保されたと報じられている。

一方、国民年金の方は、金融危機にもかかわらず17憶スイスフランの基
金の増額をもたらしたという報道があった。2008年の好景気が貢献し
たのだそうだ。しかし、2009年から2011年までは成長無しとの予
測で、安泰と言うわけにはいかないようだ。国民年金の最大の問題は景気
にあるのではなく、身障者保険の負担にあるのだそうだ。

ソマリア沖の海賊船からスイスの輸送船を守る為にスイス軍を派遣するか
どうかが議論されているが、カルミ・レ外相は、派遣は必至との見解。経
済活動に軍の出動が必要となると、軍事費とは何かの定義が拡大される。
自国の財産は領土内だけにあるのではない事を改めて思い起こさせられる。

ここにきて、エコ・エネルギー推進の国民投票を社会民主党の国民議会議
員ルドルフ・レヒシュタイナー議員が2012年の投票を目指して署名運
動を始めた。財政出動規模は2億5千万スイスフランと報じられている。
これには環境保護団体だけでなく、農民の賛同も得ているという。オバマ
大統領の進めるグリーン・ニューディール政策に倣って、持続可能な産業
基盤を築こうという事のようだ。ところで、ターゲス・アンツァイガー紙
に米国の巨額の景気刺激策のパッケージを地球よりも大きく描いたシャー
ドゥ氏のカリカチュアがあった。もしかすると、誇張ではないかもしれな
いと思えるところが怖い。エコロジーは人間社会と自然との共生無くして
成り立たない概念だ。自国の自然を守り、食料の自給率を高めることが人
類の最重要課題になるべきだと思う。

【編集後記】

金融危機の動きを日々追っていると、次々新しい展開が見られるが、際限
が無いので、今号は一先ずこれにて締めくくらせて頂く。それにしても、
我家の家計を考えるだけでも、対象が果てしなく広がってゆくのを実感。
家計は政治なり。

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